がん患者に寄り添い心身の苦痛をケアするお仕事

大学病院の緩和ケア病棟で働くナース(20代)の一日の流れ

大学病院で働く恵さん(仮名:20代後半)が、緩和ケア病棟に配属されてから2年目の春を迎えました。他の診療科に比べて患者さんとの心理的な「距離感」が近くなるため、最初は担当した患者さんが最期を迎える度に精神的な疲労が大きく、気持ちが沈んだこともありました。現在は人生経験と看護経験が豊富な先輩からの指導・アドバイスを受けながら、精一杯自分にできるケアの提供を心掛けています。そんな恵さんの一日のスケジュールは次のようになっています。

チーム医療を学ぶ機会が多い診療科です

情報シート確認、申し送り(8:30〜)
出勤後、ナース服に着替えて最初に取りかかるのは、担当する患者さんの情報シートのチェックです。シートには患者さんの病状や毎日の体調のほか、家族がお見舞いに来る日など、よりよい看護をするために必要な情報が記録されています。その後、会議室に全看護師が集まって夜勤者からの申し送りを受けます。リーダーから入院患者さんの昨晩の状態が伝えられますので、それを踏まえたうえで、その日の看護の注意点を全看護師で共有します。

麻薬鎮痛剤のチェック(8:45〜)
次に取りかかるのは麻薬鎮痛剤の確認です。緩和ケア病棟では患者さんの痛みや息苦しさを緩和するため、一般の薬よりも効き目の強い医療用麻薬を使用する必要が出てきます。これらはいつも鍵のかかる金庫に入れて数を管理するなど、取扱い方が法律で厳しく定められています。薬は患者さんごとのケースに分けられています。数もしっかり管理されており、ミスを防ぐため、3人の看護師が同時に確認を行います。

患者さんへの挨拶、点滴・薬の準備(9:00〜)
病室に顔を出し、担当する患者さんへ挨拶をします。不安を表に出すと患者さんにも移ってしまうため、いつも穏やかな笑顔を心掛けています。挨拶が終わると、ナースステーションで薬の準備をします。衛生管理のために手を洗ってから手袋を着用し、それぞれの患者さんに処方された点滴薬を用意します。飲み薬は配薬カートにあらかじめ1週間分が用意されていて、必要な分量を取り出します。薬の種類や分量の間違いは絶対に許されないので、薬の準備・投与・廃棄の3回、それぞれ二人以上の看護師が必ずチェックする体制を作っています。

患者さんのケア(9:15〜)
準備した薬をカートに載せて病室へ向かいます。緩和ケア病棟は、その特性上、抵抗力の低下している患者さんが多いため、除菌してから病室に入るようにしています。まずは体調を把握するために体温、脈拍、血圧などを測ります。患者さんと会話をし、体の痛みや体調の変化がないかの確認も欠かしません。そして、先ほど用意した薬を患者さんに投与します。よりよいケアができるように、患者さんの体調や薬の量はこまめに記録に残します。

不調を訴える患者さんがいる場合はすぐ医師に報告し、苦痛を取り除くための処置を行います。そのために緩和ケアの専門医が常に病院内にいて、いつでも対応できる準備が整っています。

患者さんの昼食配膳(12:00〜)
昼食の配膳も看護師の仕事です。食事は患者さんの体調や好みに合わせて病院内で調理されています。病気が進行して自力で食事をするのが困難な患者さんの場合、看護師による食事の補助も必要です。食事が終わると、体調管理のためにどのくらいの量を食べて、どんな薬を飲んだかも記録します。看護師もこの時間に交代で昼食をとります。

ナースカンファレンス(13:45〜)
ナースステーションに看護師全員が集まり、会議を開きます。議題は看護方針について。患者さんの体の問題に限らず、生活や家庭問題の対処など、心にも十分なケアができるように取り組んでいます。緩和ケア病棟には各診療科で経験を積んだ看護師が多いため、すごく勉強になります。また、若手看護師も自分のアイデアをだし、全員がチームとして患者さんの看護にあたっています。

点滴・薬の準備、患者さんのケア(14:15〜)
緩和ケア病棟には寝たきりの人から自力で歩くことができる人まで、様々な体調の患者さんが入院していて、それぞれの状態に合わせた看護を提供しています。体を動かせない人のための体位変換、体力の落ちた人のための入浴介助など様々です。患者さんの体調によっては病院内を散歩することもあります。

リーダーに申し送り(16:30〜)
その日の担当患者さんの状態をリーダーに申し送りします。担当した患者さんの状態はリーダーから夜勤の看護師に伝えられ、効率の良い情報共有を行っています。日勤は8時30分から17時、夜勤は16時半から翌日の9時までです。こうして24時間体制で毎日の看護を行い、見守ることで、患者さんが落ち着いた生活を送れるように支えていきます。

社会の高齢化でがん患者が増加するなか、看護師の役割が重要となっています

年間約35万人が「がん」で亡くなっており(2011年「がん統計」参照)、生涯のうち約2人に1人ががんに罹るとされています。もはや「国民病」といっても過言ではないがんは私たちの生命と健康にとって重大な課題となっています。

医師や薬剤師との連携が重要

日本のがん対策は、1984年に「対がん10ヵ年総合戦略」、1994年の「がん克服新10ヵ年戦略」、2004年の「第3次対がん10ヵ年総合戦略」が策定され、これに基づいて進められてきました。

がん患者の増加に伴い、がんを含む治癒困難な病気の全過程において、患者・家族の苦痛(身体的・精神的・社会的・スピリチュアル)を和らげことでQOLの向上を目指す「緩和医療」が注目されるようになりました。

患者のさまざまな苦痛に対応するためには、医師、看護師、薬剤師、医療ソーシャルワーカー、PT・OTなど複数の職種がチームとしてアプローチすることが求められますが、なかでも看護師は患者・家族を医学的視点及び日常生活の視点からケアする立場にあることから、その役割は重要です。

症状マネジメントにおける役割
薬物療法においては、看護師は患者の症状を的確にアセスメントし、指示されたなかから適切な薬剤を選択し、投与する立場にあります。特にレスキュー・ドーズ(がん性疼痛が強い時に、常用の薬に追加するオピオイド系鎮痛剤)の使用に関しては、看護師が適切なタイミングで投与し、その効果を評価することが求められます。

また、患者の状態をアセスメントし、現在投与されている薬剤や投与経路が適切でないと判断した場合には、医師や薬剤師と連携してその変更を検討します。オピオイド(モルヒネ等の鎮痛薬)に関する患者教育も、薬剤師の服薬指導だけではなく、日々薬剤を投与する看護師が患者の反応を見ながら行うことも大切です。

副作用対策、特に排便管理に関しては、看護師が患者の状態を最も把握しており、患者や医師・薬剤師と相談しながら下痢などを適切に調節する必要があります。

薬物療法以外にもおいても、全人的苦痛の観点から症状の閾値を上げるかかわりや、症状緩和のためのマッサージや加湿などの理学療法、気分転換やリラクゼーションなどの認知行動療法を取り組んでいくことで患者の症状マネジメントに参画することが看護師に求められます。

精神面・社会面・スピリチュアルな面のケアにおける役割
看護師は患者の日常生活の援助を行うなかで患者が抱えるさまざまな苦悩を把握できる立場にあります。それらに対して看護師は、現実的な問題解決方法の提案、支持的なかかわり、ライフレビューなど看護の立場から介入を行います。同時に他職種との情報共有や専門家の介入の調整を行うなど、チームの調整的な役割も担っています。

患者の意思決定のサポートも看護師の重要な役割の一つです。積極的がん治療から緩和ケア中心への移行期の意思決定、療養の場にかかわる意思決定など、患者の希望や家族の状況を把握し、患者の望む最後を迎えるまでの「アドバンス・ケア・プランニング(意思決定能力の低下に備えた対応プロセス)」が行えるように他職種と協働しながら積極的にサポートを行います。

家族ケアにおける役割
患者の家族もまた不安や悲嘆、疲れを抱えていることから体調を崩したりするケースが少なくありません。看護師は日頃から付き添う家族を労い、相談しやすい雰囲気を作っておくことが家族ケアにつながると考えられます。

看取りの段階では、家族の悲嘆を受け止め、患者の状況変化をこまめに家族に説明することも看護師の大切な役割となっています。看取りの場面では、家族が患者に十分に付き添えるように配慮を行い、穏やかに看取れるように他職種とも連携を行い、環境を整えます。

死別後のエンゼルケアは家族が患者の死を受け入れる過程において大切な行為となるので、家族が一緒にケアに参加できるように調整を行います。また、メモリアルレターの送付や遺族の会の開催なども看護師が中心的な役割を果たしています。

このように看護師は緩和ケアにおいて多くの重要な役割を担っています。チームの調整役として他職種と連携しながら、患者・家族の立場になって寄り添い支えていくことが大切です。

看護師に求められる適性:自分なりの「死生観」を持つことが重要です

緩和ケア(ホスピス)病棟における看護師の業務は、医師、薬剤師、栄養管理士、ソーシャルワーカー、理学療法士、臨床心理士など多岐にわたるスタッフと情報共有を行い、チームとして患者さんやご家族のケアにあたります。

医師や薬剤師との連携が重要

そのため緩和ケア領域における医療知識・技術はもとより、チームワークを大事にし、コミュニケーション能力に長けた人が求められます。

身体的な苦痛へのケアは勿論、終末期の患者さんが抱える死への恐怖感、絶望感、ご家族の無力感や悲しみなど精神的な苦痛へのケアも重要となりますので、内科的な処置に加えて、患者さんやご家族の気持ちを汲み取りながらQOLを向上させるための技術も必要です。

緩和ケアを受ける患者さんは終末期にあるケースが多いため、他の病棟の看護師に比べて患者さんの死を目の当たりにする機会が非常に多くなります。緩和ケア病棟は、急性期病棟と異なり患者さん一人一人と向き合い、その人に合わせた看護が提供できるというメリットがありますが、その反面、担当の患者さんへの思い入れも強くなる傾向にあるため、患者さんが心身の苦痛で苦しんでいたり、あるいは亡くなった時の看護師の精神的なショックは大きくなります。

ベテランの方は経験則によって、自分なりの精神的なショックの向き合い方、解決方法を確立していますが、経験が浅い若い看護師にとっては精神的な負担によって塞ぎこんでしまったり、「自分には向いていないかもしれない」と悩んでしまうことも少なくありません。医療に携わる職業に就いている方は自分なりの「死生観」を持つことが大切といわれますが、緩和ケアを行う看護師は特に重要といえるでしょう。